Japan

ISMRM 2017

『プログラム改革と腹部領域の話題』山梨大学医学部放射線医学講座 本杉宇太郎先生

 今年のISMRMはハワイだ。日本人にとっては最も親しみのあるリゾート地だが、それはアメリカ人にとっても同じ。昨年のISMRM(シンガポール)ではScott Reederら米国留学時代の友人と、”Next ISMRM in Hawaii” と何度も盛り上がったのを思い出す。

 留学先のボスであるScott Reeder が今回のプログラムチェアであるので、私も昨年からプログラム委員会(Annual Meeting Program Committee, 通称AMPC)のメンバーに抜擢してもらえた。非常に貴重な経験をさせていただいているので、はじめに学会運営側の視点から今年のISMRMを見てみたい。まず、今年から学会の会期が6日間に短縮された。土日は教育講演、月曜日からScientific session という大枠はそのままだが、開会式と開会懇親会(Opening Reception)が日曜日夕方に移動し、例年閉会式後だった金曜日のセッションがなくなった。つまり木曜夜にClosing Receptionを行いすべてのイベントが木曜日で終了する。参加費の設定も変わった。昨年までは土日の教育講演に参加しない人向けの料金設定があったが、今年からは参加費の設定は1種類のみ。土曜からできるだけ参加してもらい、教育講演を聞かなくても日曜夜から木曜夜は全員が会場にいるようにする仕掛けだ。教育講演は聞かないという玄人の先生方からは「実質的な値上げ」と批判の声もあるが、私自身は「参加者全員で6日間の学会を作る」というAMPCの趣旨に賛成だ。学会運営側から見たとき学会開催のゴールは、会を通して世界のMRI研究をさらに発展させることである。そのために欠かせないのは参加者同士の交流である。セッションを木曜までにすることで可及的に時間的密度を高くし、交流の時間を増やしたわけだ。

 参加者の交流を促進するもうひとつの試みとして、今回からSlack が導入された。Slack とはモバイルやPC上で作動するSNSのひとつである。専門領域ごとにグループが設定してあり、Slackを介して参加者同士が意見交換ができるようになっている。参加者はSlackを介していつでも質問をすることができるし、いつでもコメントを発信できる。司会者はセッションの進行中、随時Slackをチェックするように指示されており、時間があれば質疑応答の時間にその質問を取り上げる。英語を母国語としない参加者にも配慮した仕組みでとても良いと思われた。さらに、セッション後や学会後もSlackを通じて交流できるメリットは大きい。ただ今回はアナウンスが不十分で利用している参加者が少数だったのは残念である。来年以降、利用が広がれば、参加者同士の意見交換のための強力なツールとなるだろう。

 アカデミックな話題としては、腹部領域で目立った話題は何と言っても自由呼吸下撮像法(free-breathing scan)である。Golden angle radial scan を用いた自由呼吸下での撮像はもう何年も前から発表が続いているが、今回はradial scan 以外のk space trajectory を用いたmotion robust/free-breathing scanの演題も多く、特にgolden angle のアイデアを採用しているものが多かった。馴染みのない読者のために少し説明しよう。従来のサンプリングはk space のどの部分を埋めるかをリードアウトの前に決めなければいけなかった。たとえばNEX=8のfast spin echo法では、k space の一番下からの8本のラインを1回目のTR(またはショット)でリードアウトする、2回目のショットで9本目から16本目までを埋める、、、、といった具合だ。この方法では最初に指定したk spaceサンプリングが終了しなければ画像を再構成できない。しかしview sharingや圧縮センシングを用いて画像再構成することを前提にするならば、k space のサンプリングはk space中心を頻回に通り、k space周辺は重ならないgolden angleのサンプリングが圧倒的に良い。なぜなら、この方法でデータを取り続けると、時間平均で見た時k space中心に重きをおいたk space全体のサンプリングが行える。しかも、そのデータを後処理で任意の時間からデータを取り出して利用することができるからだ。つまり、撮像したデータの一部分だけを取り出して画像を再構成できる.例えば,1分間の撮像を行なったデータの中心の20秒分のデータだけを用いて画像再構成することができる。これにより、ダイナミックMRIの時間分解能を後から任意に決めるもできるし、呼吸モニターのデータと合わせて(または撮像画像そのものから)呼吸同期や呼吸動き補正の画像再構成も後から任意に行うことができる。「k space中心を頻回にデータ取得する」、「その他の部分のサンプリングが短時間のうちには重ならないように」という原則を守れば k space trajectory はどんな方法でも達成可能だ。今回のISMRMにおける発表で見かけたk space trajectory を紹介しよう。従来から最も用いられている方法を採用していたのは、University of California, Los Angels からの発表である。x-y平面を放射状に通る1本のラインをz 軸に積み重ねていく方法でstack-of-radial samplingと呼んでいる。これは基本的にはNew York University で開発されたGRASPと同様で、今回はmulti-echo acquisitionにして自由呼吸下での脂肪率定量に応用した発表であった。University of California, San Diego は、Cartesian座標上でx軸にリードアウトを行い、y-z 平面を類らせん型(quasi spiral)に順番に埋める方法で Rotating Cartesian K-Space (ROCK)と呼んでいる。Stanford University は3次元 k space を円錐状のらせん型に埋めていく方法を用いgolden-angle ordered conial ultrashort echo time MRIとして発表した。いずれもサンプリングの方法は違うが目的は同じで、「自由呼吸撮像」「後処理による動き補正・呼吸同期」「後処理による時間分解能操作」である.毎年の発表をみると画質は確実に改善している.このペースでいけば数年のうちに「肝の造影MRIは自由呼吸下で行うのが主流」という時代が来るかもしれない。そうしたら10年後には呼吸停止下撮像など過去の遺物になっていて、「昔はねえ、腹部のMRIは患者さんに息を止めてもらいながら撮ってたんだよ...」と過去を懐かしみながら次世代の若者に語ることになるのだろう。

 ISMRMに参加すると毎年思う、「MRIの進歩は止まらない」と。世界の研究者たち、それも若い世代の研究者が次々と新しいアイデアを発表し、それらが実現されていくのを見るのは本当に楽しい。やはりISMRMは特別だ。

 

ホノルルの夕日。名古屋大学放射線科田岡俊昭先生撮影。ご本人の許可を得て掲載させていただきました。  

『ISMRMに行ってきました!』 東京大学医学部附属病院 放射線科 神谷昂平先生

 本特集は過去振り返ると錚々たる先生方が執筆されていて、私のような若造がという思いがありますが、多様な参加者からのレポートをという人選意図と考え、素直に自分の感想で書いてみます。系統的でなく、関心が偏っているため共感を得にくいことも多々あると思いますが、何卒ご容赦下さい。

 ISMRMは今回4回目になりますが、毎回新しい発見があり、次回参加するためにまた1年頑張ろうという気になれる学会です。ある大先輩の言葉を借りると「アタマをガツンと殴られるような」知的刺激を受けられます。毎年変わる魅力的な開催地もモチベーションの1つです。今年はハワイ、ホノルル。会場はビーチや市街中心から徒歩圏、大型ショッピングモールに近接する好立地で、半袖半ズボンがちょうどよい程の天候もあり、一足先に夏気分を感じることも出来ました。

 何と言っても今年のプログラムでまず目を引くのは、日本の私達には神田先生の名前とともに馴染みの深いGdの蓄積に関するplenary sessionがあり、長縄先生がglymphatic systemのご研究を含めご講演されたことです。plenaryは今年から録画がストリーミング公開(ログイン不要)されていますので今回参加されてない方もご覧になれます。glymphatic systemで検索すると今年の演題数は9と、まだ新しい領域だからか少ないですが、脳の老廃物排泄系としてAlzheimer病等の疾患や睡眠との関連が盛んに言われ、今後演題が爆発的に増えることも予測されます。イメージング(できれば非侵襲的な)の手法についてはまだ手探り感がありますが、こちらでも田岡先生が独創的な発想で先鞭をつけられています(#2356)。日本の私達には人口あたりのMRI台数世界首位というアドバンテージ(?、というか読影負担?)があり、日頃目にする画像からこの新しい領域で何かを発見することもひょっとしたら出来るかもしれません。セレンディピティはその準備が出来ている者にしか訪れないと言われますので、上の先生方に倣いしっかりと備えをしたいところです。

 その他にキーワードとして、MR fingerprinting (MRF), multi-modal, time-dependent diffusion, machine learningなどの演題が増えたようです。MRFは昨年もトピックでしたが更にセッションが増え、実用化が近づいた感があります。multi-modal imagingはそれ自体新しくありませんが、MRF、あるいは既に一部で導入が始まっているQRAPMASTER等が普及すればT1マップ,T2マップが短時間で得られるようになることも見越してなのか、複数のマップを組み合わせて何らかの特徴量(例えばミエリン)を得ようとする演題が多くなりました(#18, #20, #2405, #0916, 等)。また拡散MRIの白質モデルに関して、#1091にて、普通のDKIやNODDI用の拡散MRIデータからintra-axonal fraction等を一般的に求めることがいかに解き難い(解が一つに定まらない)問題か、明快な説明がされました。NODDIを始めモデルは流行りではありますが、現状ではどの手法も必ずモデルに何らかの制限を設けることで数値を返している(その制限が妥当かは外部的な方法で確認が必要)ということは意識する必要があります。制限を緩める/無くするための撮影・解析も、幾つかのグループが引き続き挑戦中です(#0836, #3383, #0716)。

 正直、正体不明の数式満載の演題が多い学会です。しかし逆に、小さな、”分かった!”を得られるチャンスが沢山あります。参加して分かったのですが、研究者の多くは、数学や物理を全く解さないMDの相手をするのは馴れっこのようで、捕まえて質問すると、かなり初歩的な内容も嫌な顔一つせず親切に答えてくれます。また、その場では全く分からない場合も、顔と名前が講演内容とセットになると、後日その人の論文を読んだ時に理解がし易くなる効果があります。更に続けて参加すると、自分の好みの研究者のリストがどんどん増え、彼らの名前で時々検索をかけてフォローアップをするという楽しみもできます。

 乱文で恐縮ですが、ISMRMの魅力(上記はほんの一部です!)を少しでも伝えられたことを願います。そしてもし本稿が力不足で目的を果たせていなくても、来年開催地はパリです。こちらの魅力は説明不要ですね、是非行きましょう。

 

『第25回ISMRMに参加して』 神戸大学医学部附属病院 放射線科 前田隆樹先生

 2017年のISMRMは、4/22から4/27にホノルルで開催されました。GWで日本からの観光客が増える時期を避けてのことでしょうか。第18回のストックホルム大会が連休と重なって以降は、ほぼ連休から外れています。今回参加された先生方の中には、帰国後の土日、に時差ボケ解消もかねて読影をなさった方もいらっしゃると思います。

 ISMRMに参加するのはMDが約3割、PhDが約7割程度でとのことで、自身の専門分野から外れた領域の発表については、ほとんど見たこともないような画像、数式が幾つも提示されています。技術的な演題に関してはよく分からない分野もありましたが、それだけ、MRIが多様な目的で使用され、また各種の需要に応えるべく新たな試みがなされていることを反映していると思われます。

  Gd depositionについての現時点での総括の形で、4月24日にplenary sessionが行われました。2014年の神田先生の報告以降、Gd造影剤の生体への沈着についての知見が大きく広まったのは周知のとおりですが、これをまとめる形で約1時間をかけて3名の演者による講演が行われました。この3人目には、名古屋大の長縄先生もご講演されています。

 ヨーロッパにおいては、欧州医薬品局が2007年に最も安定性の低い薬剤の使用を制限しており、これに伴ってGd造影剤は線状型からマクロ環型に徐々に切り替えられ、今日ヨーロッパで使用される薬剤の約75%がヨーロッパでマクロ環型となっています。この制限/ガイドラインにより、2009年以前に造影剤を使用された症例を除いては、2009年以来NSFの新しい症例は報告されていないと報告されていました。

 また、将来的には、MRI造影剤はマクロ環でキレート化されたGdをペプチドないし脂質と結合させたものやGdを中に含んだfullerene( フラーレン: サッカーボール様の形態となった炭素同位体)、ほかにマンガンや鉄をキレート化した造影剤などが考えられているようです。

 演者の見解では、全てのガドリニウム造影剤は僅かでも残存する可能性があり、キレート化された不溶性のGdは、ほとんどの組織に見出されると考えられているようです。Poster展示にて、7T装置でのdGEMRIC (delayed Gadolinium Enhanced Magnetic Resonance Imaging of Cartilage) の報告がありましたが、この報告で使用されていた造影剤は線状型であり、今後はこのような検討はしにくくなるかもしれません。

 Gd造影剤に関連したElectric posterでは、In-vivoでの骨へのGd沈着を測定したという報告が目を引きました(5563)。自作の装置を用いたpilot studyとのことでしたが、半年~5年程度前にGd造影剤を使用した患者の脛骨から計測を行ったところ、control群と比較して高い値となっており、また、使用量に対しても正の相関があったとされています。実際に提示されていたグラフでは計測値が0未満になっている被検者もおり、この数字の精度を鵜吞みにはできませんが、今後このような装置を用いた経時的なGd沈着量の検討も行われてくる可能性があります。この報告では、この検討でのGd濃度はμg Gd/g bone mineral 単位で計測されており、今回我々が報告した7-14日後の骨へのGd沈着 (マクロ環構造のGd-DOTAで~300ng/g)よりも著明に低値でしたので、緩徐ながら経時的なwashoutを反映している可能性があります。

 ハワイは常夏と表現されますが、今回の滞在ではやや雨が多いように感じました。次回のハワイ開催がこの時期になるかは不明ですが、念のため雨具のご用意を。

Electric poster会場:2時間枠で前半と後半に分けられていたが、前半の展示で議論が白熱した縁談では。10分以上オーバーすることもしばしば。

学会入口の遠景:この日の学会終了時刻には、大型バスが15台ほど並び、各企業のセミナー会場へ。企業によってはサーフボード型の案内板を出すところも。